学校歯科健診は、単に歯のう蝕(むし歯)のチェックだけではなく、短い時間の中で実に沢山のことを診ています。
児童生徒健康診断表(歯・口腔)の健診項目 に従って行われ、「歯肉の状態」「歯列・咬合・顎関節の状態」「歯垢の状態」を評価し、次に歯牙の診査に移ります。
萌出している全歯牙については、その状態の判定(萌出状況、う蝕の有無、処置の有無、喪失歯の有無、要注意乳歯の有無、要観察歯の有無など)を行い、これらは、その場で診断表に記入されます。
診査は主に視診で進められ、診査項目によっては問診や触診が行われます。

健診が行われる項目について、詳しくご紹介します。

学校における歯科健康診断の考え方

学校保健には二つの面がある。保健管理と保健教育である。この両面は車の両輪のようなものである。
保健管理は医療・保健学的な要素を多くもっており、地域 保健活動の一分野として位置づけられている。これに対して保健教育は学校教育の一分野であり、医学・歯学は教育活動の一つの素材である。
この二つの面は、 児童・生徒の保健向上という一点を軸に調和を保っていくことが必要である。

1994年、学校保健法施行規則の改定(平成7年度実施)があり、歯・口腔の健康診断の方法や内容がかなり変更になった。
学校における健康診断は「疾病 や異常の発見だけでなく、健康の保持増進を目的とした健康状態を把握する立場から確定診断を行うのではなく、問題のある者、疑いのある者をスクリーニング する」という考えで実施されるようになった。
歯・口腔の診断では、歯列・咬合・顎関節の状態、歯垢の状態、歯肉の状態、歯の状態を診査し、疾病。異常が認 められない者、経過観察を必要とする者、歯科医師による診断や医療を受ける必要がある者にふるい分けし、事後措置として必要な指導等を行うようになった。

※ 学校歯科保健アジア会議 (2001.7.17~19) での、西連寺愛憲先生 (日本学校歯科医会会長) の基調講演より抜粋

「歯肉」「歯列・咬合・顎関節」「歯垢」の評価について

健診において、「歯肉」「歯列・咬合・顎関節」「歯垢」の評価は、0、1、2の3段階で評価します。

歯肉の状態

歯肉の炎症(歯肉炎・歯周炎)について診査します

歯肉の炎症の程度評価
炎症症状(発赤、腫脹、出血等)が無い0
軽度の炎症症状がある1
相当の炎症症状がある2

歯列・咬合・顎関節の状態

歯並び、かみ合わせ、顎の関節について診査します

歯並び、かみ合わせ、顎の関節の状態評価
異常なし0
定期的な観察を要する1
より専門的な診査が必要2

歯垢

歯垢の清掃状態を診査します

歯垢の清掃状態評価
ほとんど歯垢が付着していない0
歯面の3分の1以下に付着がみられる1
歯面の3分の1以上に付着がみられる2

このような3段階評価は、健診後の対応に反映されています。

  • 評価「0」→異常なし(現状では健康が維持されている)
  • 評価「1」→要経過観察(学校での指導および定期的な観察が必要)
  • 評価「2」→要受診(歯科医による専門的な診査、指導が必要)

歯牙の診査について

現在萠出している歯牙を確認し、それぞれの歯牙全てについてう蝕の有無、処置の有無を診査します。
う蝕の進行程度により「要観察」か「要治療」かを判断します。

歯牙診査の基準と診断表記号

現在歯う蝕は見られない歯
未処置歯Cう蝕が見られる歯(※1)
処置歯う蝕(またはその他)のための処置が完了している歯
喪失歯何らかの理由により抜歯となった歯
要注意乳歯×永久歯の萠出に妨げとなるなど、抜歯を考慮すべき乳歯
要観察歯COごく初期のう蝕が疑われ、経過の観察が必要な歯(※2)
  • ※ 1)現在、治療が必要なう蝕の存在が認められた場合、一括して未処置歯(C)と取り扱います。
    以前のようにう蝕進行の程度による分類(C1~C4)は行いません。
  • ※ 2)要観察歯COについて、詳しくは下記の「CO、Cについて」の項をクリックして下さい。

CO、Cについて

平成14年2月に、う蝕歯診査が大きく変更されました。

CO(要観察歯)とは

主として視診ではう蝕とは判断できないが、着色・白斑などう蝕の初期病変の疑いがある歯をいい、次のような歯が該当します。

  • 小窩裂溝(噛み合せの溝)に褐色の着色が見られ、粘性が触知される
  • 平滑面(溝以外の平らな部分)に、粗造面や白濁・褐色斑がみられる
  • 隣接面(歯同士が接している面)に、エナメル質が軟化、実質欠損が明らかでない

CO(要観察歯)は、適切な指導を行うことにより、むし歯への移行を遅らせたり、健全な状態への回復が期待できる段階の歯です。治療勧告の対象とはしませんが、放置すると、ウ触に進行する可能性が非常に高いので、その後の定期的な観察や刷掃指導、食事指導などの保健指導・保健管理を学校内で行う必要があります。

歯肉付近(矢印)に、白濁
歯肉付近(矢印)に、白濁
平滑面にみられる白濁
平滑面にみられる白濁
小窩裂溝にみられる着色
小窩裂溝にみられる着色

参考例は日本学校歯科医会(日学歯)発行資料より転載

C(未処置歯)

速やかに、治療を必要とする状態の歯をいいます。
過去に治療を受けた歯でも新たなウ触が認められる場合(二次ウ触など)は含まれます。
また、現在治療中のウ歯も健診時点で治療が終了していない場合は未処置歯として判定されます。
なお学校歯科健診では、う蝕歯は進行程度に関係なくC(未処置歯)として取り扱われ、従来のC1~C4といった4度分類は行われません。

サホライドの評価

乳歯う蝕では、進行を抑制するためにサホライド(フッ化ジアミン銀製剤・通称“進行止め”)を塗布することがあります。
歯科健診での評価は次のとおりです。

  • COの状態で塗布したことが明らかな場合→CO
  • 塗布面にう蝕による実質欠損があれば→C

裂溝填塞材の評価

歯の溝にでき易いう蝕の予防や、ごく初期状態からの進行を抑制するために、樹脂等(シーラント材)を詰めることがあります。歯科健診での評価は次のとおりです。

  1. 予防充填及びCOと思われる歯に填塞されている場合→健全歯
  2. ウ歯に填塞されている場合→処置歯

GO、Gについて

丈夫な歯とは、歯そのものが丈夫ということだけではなく、十分ものが噛める歯でなくてはなりません。
したがって、その歯をしっかり支える役目の歯肉や骨の健康状態は非常に大切で、健診でも重要な診査項目の一つになっています。

GO(歯周疾患要観察者)とは

学校歯科健診では、歯肉に関して次のようなものを「歯周疾患要観察者GO(0=observation:観察、注目)」としています。

  • 歯肉に軽度の炎症症状が認められるが、健康な歯肉の部分も認められる。
  • 歯垢の付着は認められるが、歯石の沈着は認められない。
  • 歯の清掃指導を行い、注意深い歯磨きを続けて行うことによって炎症症状が消退するような歯肉の保有者。

医療機関での治療を受けなくても、学校での適切な対応により歯肉の改善が期待できると判断されたものが該当し、治療勧告の対象とはなりません。
健康診断票では、歯肉の状態の欄には評価「1」(軽度の炎症)、所見欄には「GO」と記載されます。
事後のフォローとして、学校での刷掃指導、食事指導などの保健指導を行い、一定期間の後、炎症症状の改善を確認します。

健康な歯肉

健康な歯肉
どこにも発赤、腫れ、出血などの炎症症状がない

GO:部分的な歯肉の炎症

GO:部分的な歯肉の炎症
矢印の部分だけに炎症が認められます

GO:不潔による歯肉の炎症

GO:不潔による歯肉の炎症
正しい歯磨きを心掛けることで炎症が改善されると判断された症例

参考例は日本学校歯科医会(日学歯)発行資料より転載

Gとは

歯肉の炎症が進んでおり、症状の改善には歯科医師による詳しい診査や診断、そして適切な治療と口腔衛生指導が必要と判断されたものです。
健康診断票では、歯肉の状態の欄には評価「2」(相当の炎症)、所見欄には「G」と記載され、治療勧告の対象となります。
通常、歯肉を含めた歯の周囲の組織の炎症は、歯肉に限局したものを歯肉炎、歯を支える骨(歯槽骨)にまで及んでいるものを歯周炎(いわゆる歯槽膿漏)として分けられ、治療に際しては、個々の状態に合わせた処置と指導が必要です。
健診では両者を区別せず、評価「2」(相当の炎症)として「要治療」の扱いになります。

歯列・咬合異常の判定基準について

いろいろな歯列・咬合異常については、下記の基準で判定されます。

  1. 反対咬合
    3歯以上の反対咬合
  2. 上顎前突
    オーバージェット8mm以上(通常使用するデンタルミラーの直径の1/2程度)
  3. 開咬
    上下前歯切端間に垂直的に6mm以上の空隙があるもの(通常使用するデンタルミラーのホルダーの太さ以上)
    ただし、萌出が歯冠長の1/3以下のものは除外
  4. 叢生
    隣接歯が互いの歯冠幅径の1/4以上重なり合っているもの
  5. 正中離間
    上顎中切歯間に6mm以上の空隙があるもの(通常使用するデンタルミラーのホルダーの太さ以上)
  6. その他
    上記以外の不正咬合で、特に注意すべき咬合(過蓋咬合、交叉咬合、鋏状咬合、1歯のみでも著しい異常等があれば記載)

歯列・咬合異常の評価

健診時、歯列・咬合異常については3段階の評価をおこないます。

  • 異常なし…評価「0」
  • 定期的な観察を要する…評価「1」(要観察)
    健全な歯列・咬合の発達を阻害するおそれがある、軽度の異常が認められ、日常生活の中での注意事項について説明を行い、次回診査以降、経過を観察する必要があります。
  • より専門的な診査が必要…評価「2」(要精検)
    医療機関にて精密な検査をうける。現在の状況から予想される将来の弊害を十分認識していただく必要があります。

経過観察が望ましい歯列・咬合例(要観察“1”の対象)

前歯部が反対咬合
下顎両中切歯が生え変わりましたが、上顎の前歯(乳歯)との咬み合わせが反対咬合。永久歯の交換まで経過観察が必要。
下顎右側側切歯
下顎右側側切歯が歯列の内側に大きくずれて生えてきました。
正中離開と側切歯の萌出余地不足
正中離開と側切歯の萌出余地不足が心配される。
犬歯の萌出余地不足
犬歯の萌出余地不足が心配される。

特に注意を要する歯列・咬合例(要精検“2”)

反対咬合
前歯部、臼歯部とも反対咬合。
上顎前突
上顎前歯部の突出が著しい。
開咬
開咬。
叢生
著しい叢生ならびに下顎中切歯の咬合性外傷が認められる。
正中離開
著しい正中離開。
過蓋咬合が著しい。下顎前歯歯冠の大部分が覆われている。

参考例は日本学校歯科医会(日学歯)発行資料より転載

学校歯科健診での顎関節診査

児童生徒を取り巻く社会環境・生活様が年々著しく変貌してきました。
その結果、顎関節を含む咀嚼時の障がいを訴える児童生徒も急増しています。
顎関節に関する異常な症状は全て病気(いわゆる顎関節症)であるわけではありませんが、異常を早期に、的確に把握し、その過程を観察し適切な指導を行うことは、顎関節 症へと増悪することの予防につながるものです。

顎関節の異常とは?

顎関節の健診では、つぎのような異常を診査します。

  1. 開口障がい
  2. 痛み(関節部や顔面の筋肉)
  3. 関節雑音(顎を開閉する時の雑音)
  4. 偏位(顎の開閉時の軌道が歪んでいる)

顎関節の診査には?

  • 視診(顔の対称性、開閉口時の顎の動き)
  • 触診(顎関節部)
  • 問診・聴診(疼痛、関節雑音など)
  • 開口量の計測(開口障がい)

その他に、事前のアンケート(問診)を実施することがあります。

顎関節の診断基準

学校健診では、顎関節異常について3段階に判定しています。

  • 評価「0」…異常なし
    顎関節部、咀嚼筋の異常を認めず、口の開閉によって開口障がい、下顎の偏位、疼痛などの異常所見がなく、さらに本人からの異常の訴えがない場合
  • 評価「1」…要観察
    開閉口時、下顎の偏位がみられる場合
    開閉口時、顎関節部に雑音がみとめられる場合

注意

疼痛、開口障がいなどが現れた場合は、速やかに養護教諭または学校歯科医に相談してください。

健診を受ける児童・生徒へのお願い

  1. 正確な健診が受けられるように、朝、必ず歯を磨いてきてください。
    (歯磨きを忘れた児童・生徒は健診までに済ませてください)
  2. 健診が午後の場合は、給食後の歯磨きを忘れずに。
  3. 健診聞き取りの妨げになるので、健診会場や廊下ではおしゃべりをしないで、静かにしてください。
  4. 健診を受ける時、自分の名前をハッキリと名乗ってください。
  5. 健診中は大きくお口を開けてください。
  6. 日頃、気になることが有ったら、健診の時に気がね無く相談してください。
  7. 事前の調査アンケートがある場合は、期日までに提出してください。