骨粗鬆症と歯科治療

 骨粗鬆症とは、骨の代謝バランスが崩れ、骨形成よりも骨破壊が上回る現象が続き、骨が脆くなった状態を言います。つまり、骨の量が減って弱くなり、骨折しやすくなる病気です。 現在、超高齢社会の日本では1,300万人を超える方が罹患していると言われています。
 では、骨粗鬆症と歯科治療は関係があるのでしょうか?
 骨粗鬆症の治療薬にはビスフォスフォネート(BP製剤)やデノスマブ(抗RANKL抗体)、ビタミン製剤、カルシウム製剤、女性ホルモン製剤、副甲状腺ホルモンなどがあります。
 これらの中でBP製剤と抗RANKL抗体、そして新規治療薬の抗スクレロスチン抗体などに顎骨壊死を引き起こす可能性があるといわれています。

顎骨壊死とは?

 あごの骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐った状態になることです。
 あごの骨が腐ると、口の中にもともと生息する細菌による感染が起こり、あごの痛み、腫れ、 膿が出るなどの症状が出現します。

薬剤関連性顎骨壊死

 骨粗鬆症でBP製剤、抗RANKL抗体、抗スクレロスチン抗体を処方されている患者さんが、歯性感染症(むし歯、歯周病などが原因で歯肉や顎骨などが腫れること)を持っていると顎骨壊死が発生することが分かってきました。
 これらの薬剤は、他の病気などが原因で起こる続発性骨粗鬆症や悪性腫瘍で骨転移のある方、またその可能性のある方にも処方され、同様な顎骨壊死を起こすことがありますので注意が必要です。発症した場合には、入院、手術での治療が必要になる場合もあります。

歯科治療時の注意点

1)お薬手帳の提示

骨粗鬆症治療薬の中でも顎骨壊死に影響を与えないものもあります。また、現在は処方されていないお薬でも後には必要になる場合もあります。
ご自身で判断せず必ずお薬手帳を持参してください。また、手帳には書かれない注射投与もありますので、注射を受けている場合はその旨を歯科医師に伝えてください。

2)歯科医師とお話していただきたいこと
  1. 抜歯・歯科インプラント・歯周外科など顎骨に侵襲が及ぶ治療はよく説明を聞いてください。
  2. 一般の歯科治療では歯石除去・むし歯治療・義歯作成などがありますが、治療後に義歯などにより歯槽部粘膜の傷から顎骨壊死が発症する場合もありますので定期的に口腔内診査は必要です。
  3. 糖尿病等の既往症や、喫煙、飲酒、がん化学療法などがあれば、顎骨壊死の危険は高まります。必ず歯科医師に伝えてください。
3)薬剤関連性顎骨壊死を防ぐための休薬と再開

歯科医師が担当(処方)医師と相談の上決定しますので自己判断で休薬・中止をしないでください。最新の情報から休薬や中断せずに歯科処置ができる可能性が出てきました。しかし、処置方針に従ったとしても顎骨壊死が生じる危険性はあります。歯科医師は顎骨壊死の予防には努めますが服用患者さんも定期的な経過観察と口腔清掃の徹底が重要です。

歯周病は薬剤関連顎骨壊死の原因となるのみではなく、糖尿病やがん、関節リウマチをはじめとする種々の疾患に関わることが知られています。骨粗鬆症治療開始に際して、歯科への受診は顎骨壊死の予防のみではなく、これらの疾患の予防にもつながります。
 定期的な歯科受診により病気の予防につなげましょう。

参考

歯医者さんに伝えていただきたい病気と薬 日本歯科医師会ホームページ
ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死 – 厚生労働省